東京高等裁判所 昭和56年(う)1654号 判決
被告人 長谷川喜久
〔抄 録〕
論旨は法令の解釈適用の誤りの主張であり、要するに、被告人は昭和五五年九月一九日浦和地方裁判所越谷支部において業務上過失致死・道路交通法違反罪により禁錮八月に処せられ、右裁判は同年一〇月四日確定し、昭和五六年六月一二日右刑の執行を受け終わったものであるのに、原裁判所が同年九月二二日本件恐喝罪により被告人を懲役八月、四年間刑執行猶予に処する旨の判決を言渡したのは前記確定判決の刑の執行終了の日から五年を経ないで再び刑の執行を猶予したもので、刑法二五条一項の解釈適用を誤ったものであり、その誤りは判決に影響を報ぼすことが明らかである、というのである。
そこで、原審記録を調査して検討すると、被告人は所論指摘のとおり昭和五五年一〇月四日確定した業務上過失致死・道路交通法違反罪による禁錮八月の刑の執行を昭和五六年六月一二日受け終わっていることが認められるから、原判決の宣告日である同年九月二二日には右確定裁判による刑の執行終了日から未だ五年を経過していないことが明白であり、被告人に対しては、刑法二五条一項により刑の執行を猶予することは許されないというべきである。もっとも、本件恐喝罪は、被告人が他六名の者と共謀して昭和五五年八月一九日ころから二五日ころまでの間になした犯行であり、右確定裁判を経た罪とは刑法四五条後段の併合罪の関係に立つ余罪であることが認められるけれども、刑の執行猶予の要件を定めた刑法二五条一項一号所定の「前ニ禁錮以上ノ刑ニ処セラレタルコトナキ者」とは、現に審判すべき犯罪について刑の言渡しをする時を基準として、それ以前に他の罪について確定判決により禁錮以上の刑に処せられたことのない者を指し、現に審判すべき犯罪が右確定判決の前に犯されたものであると、後に犯されたものであることを問わないのであり(最高裁判所昭和三一年四月一三日第二小法廷判決、刑集一〇巻四号五六七頁等参照)、ただ、同法二五条一項により刑の執行を猶予された罪のいわゆる余罪については、それが同時に審理され一括して判断してもなお刑の執行猶予の言渡しが相当とする場合もありうることから、再び同条項により刑の執行猶予を言渡すことができるに過ぎない(同裁判所昭和三二年二月六日大法廷判決・刑集一一巻二号五〇三頁参照)と解すべきであり、本件はさきに言渡された実刑判決の余罪であって右の場合に当らないことは明らかであるから、被告人を懲役八月に処したうえ四年間右刑の執行を猶予した原判決には刑法二五条一項の解釈適用を誤った違法があり、これが判決に影響を及ぼすことは明らかである。
(千葉 香城 植村)